#15「こうして始まった」

前回までの復習
先輩とのなにがしによって自分を大事に出来なくなった私は、流されて店長の部下二人と関係を持った。
けれど、そんなことをする自分に嫌気がさし、どちらとも一旦関係を切る。
そんな中、関係を持ったYさんの呆れた一言によって、店長が自分たちの関係を知っていたことに気付く。
そして私は店長に打ち明けることを決意するのだった。
繋がった手段
あの瞬間の夫の表情だけは、今でも本当によく覚えている。
「こいつマジで言いやがった」
と思った時の心中はまさに一致してた。
そりゃあもう「心底呆れた!」と、付き合ってから語り合うぐらい。
でも、あの時の反応があったからこそ打ち明ける決意ができたことも事実で。
たぶんそれは、たまたま店長といつもの軽いノリでご飯を食べに行って、家まで送ってもらったその車の中だったと思う。
「知ってるかもしれないですけど、実はYさんと不倫関係やったんです……」
「あー……うん。そうやろうね」
「もう切れたんですけどね。なんとなく、店長には黙っておきたくなくて」
「そうかぁ」
このくらいの短い会話で終わった。
でも、伝えた後に店長は私にメモをくれた。
「もしまだ相談したいことがあったらコレにメールくれたらいいよ」
ローマ字と数字の羅列が書かれた紙を見て、口で言うより伝えやすそうやな、と思った。
実際、メールは時間やタイミングを考えなくてもよくて、そこから店長との個人的なやり取りが始まったのだ。
それは一ヶ月続いた
最初のメールはあいさつだけの簡素な内容やった。
それと、してくれたことに対してのお礼を添えて。
1回目のメールを送ったら、翌日、返事のメールがパソコンに届いていた。
それに対して、私もメールを返した。
夜に私が店長にメールを送ると、
翌朝に店長からメールの返事が届いていた。
メールはだんだんと長くなる。
話題は尽きることなく、メールのやり取りは1日と空かず続いた。
メールは一ヶ月まるまる続いた。
それは2005年の3月のこと。
ずっと、メール交換をしていた。
楽しかったなぁ。
それが一日の楽しみ
今思い返してみても「1日で1番ワクワクすることが翌朝に待っていた」って言えるぐらい楽しみにしていた。
駆け落ちした時、店長はパソコンを持ってきていて、時間が経つにつれてそのパソコンも使えなくなっていったから新しいの買ったんだけど、「前の捨てないの?」って聞いた時、「あの時のメールが全部残ってるから。ときどき読んでるねん」って、はにかみながら言ってた。
可愛い人よなぁ。
ウチにとってもいい思い出なんやけど、あの人にとっても相当に良い思い出なんやとその時知って、嬉しかったな。
めっちゃ嬉しかった。
相手の本質に触れて、かつ、それが自分に限りなく近くて、想いが愛おしくて、気付けば好きになってた。
早かった。
お互い好きになるまでの時間が早かった。
1か月後には文字ベースじゃなく、現実で話すようになってて、お互いが好きだと理解した。
それでも「付き合う」ってなったのは初デートからやったな。
どっちが先に言い出したか忘れたけど、メールで「二人でどこかへ行きたいね」、を実行したからだった。
あれ? 何かを買いに行きたいって私が言ったからだっけ?
まぁとにかく、1か月間のメールは本当に私たちの仲を、距離を、変えてくれた。
現代で良かったと思った。
でなきゃ他人で終わってた。
すれ違うだけの人にならなくて良かったと、きっかけを思い出すたび、心から安堵する。
続き、楽しみにしてます