#23「駆け落ち②」

前回の復習
車に飛び乗り、携帯を解約し、家からどんどんと遠ざかる。
喜びと不安を抱えて、向かう先は西。
そう。私たちは、広島を目指していた……
1
駆け落ち先に広島を選んだのは、駆け落ちは何故か北を目指すのがセオリーやから裏をかいて反対方向にしようと思ったことと。
寒い場所は嫌だったからだった。
でも、広島、寒いんだよねー。
めちゃくちゃ寒いんだよねー。
今大阪に住んでるけど、全然雪降らなくてありがたすぎる。
でも当時は夫も私も、大阪より寒いなんて知らなかった。
ただ、お互いが過去行った場所で良かった県を候補地にしただけだった。
思っていたより雪が降るから大変だったけど、広島にしてよかったと思う。
人が良かった。
いい人にたくさん出会えた。
形はどうであれ、私は家を出て良かったと思っている。
2
広島に入る少し手前の岡山あたりで、高速を降りた。
海沿いを選んで車で行く。
途中、どこかのスーパーに寄って夕飯を買い、その辺の海でテキトーに指輪交換と誓いの言葉を交わし、ままごと結婚式をやった。
2回目だから、この辺はサクッと割愛。
問題は泊まったホテル。
あの恐怖を、今更あの熱量で書かれたら、たぶん読んでる方がしんどいだろうと思う。
私もしんどい。
だから書かない。
けど、なにごとにも「いまならまだ引き返せる」という瞬間はある。
21でその感覚を強烈に体験した私だけれど、40になってもそれを痛感する場面がある。
人生とは、本当に選択の連続なのだ。
だからこそ、常に選べる状態でありたいと願っている。
そして、選ぶためにはお金はあった方が絶対いい。
なぜなら、選択肢が増えるからだ。
あの時の自分にこの知識があったのなら、きっとあれほど苦労はしかなった。
でも、その苦労すらも、夫のいない今は愛しく思える。
3
眠れない夜を越えて、私たちは結局、「やっぱり大阪に戻ろう」とはならなかった。
あのとき家に連絡をしたら、
あのとき来た道を引き返せば、
あのときどちらかが「帰りたい」とでも言えば──。
………。
そうすることは簡単だったと思うし、その方が幸せになったかもしれない。
苦労しなかったかもしれない。
けど、私はあの人をあの世界から引き離したかった。
夫を取り巻くあの環境から夫を自由にして、二人きりで暮らしたいと思っていた。
「一緒に逃げよう」と言われたとき、決めた自分の決意をなかったことにするのは悔しかった。
だからその夜は耐えた。
地獄のような一夜のあと、日が昇ってすぐにホテル代を支払って、無言で車に乗り込んだ。
車を走らせたとき、なんだかやけにホッとしたっけな。
あのホテルは、異空間のような、次元の歪んだ場所に思う。
海沿いに存在するラブホテル「seto」。
振り返ったとき、もしそのホテルがそこにもうなかったら。
どう見ても何年も昔に廃業したままのさびれた佇まいだったら。
あの怖さも納得がいくのにな。
って、もうそれ、ただのホラーやん(笑)