#22「駆け落ち」

前回の復習
お金を集め、できるかぎり悔いのないように、身辺整理をした。(といっても、ほとんどできてない)
なんやかやしているうちに、あっという間に駆け落ちしようと決めた当日となった。
待ち合わせた近所のコンビニに、いつもどおりに「いってきます」と言って出た私。
ここから、新しい人生が始まる。
1
学校へ行くにしては少し大きめの荷物を抱えて、家にいる祖母だけでなく、家そのものに「いってきます」と言った。
出立の朝、私は不安はあったが、たしかに喜びもあった。
あの人が「店長」じゃなくなる瞬間がきたのだ。
だから、ここから先は店長を「夫」と呼びたい。
厳密にはそうじゃないけど、気持ちではもう彼は私の夫だった。
彼氏だった期間は短かった。
誰にも紹介できない彼氏は、つらいな。うん。
コンビニで私を待つ彼を見たとき、やっぱり嬉しかった。
この先どんな苦労が待っていたとしても、この人とならどうにか乗り越えていけると思った。
私は21。彼は36。
お互いまだ若かった。
2
逃げるなら、まずは足がつくものを捨てる必要があった。
携帯がその最たるものだと思う。
車を走らせて最初に行ったのは、ドコモショップ(夫の)とボーダフォンショップ(私の)。
ソフトバンクにはまだなってなかったな。
懐かしいね(笑)
ショップの開店時間に合わせて待ち合わせ時刻を決めた気がする。
9時半か、10時か、なんかそのくらい。
解約してすぐに高速に乗ったから、10時半にはもう高速の上だったと思う。
携帯がないと色々困るだろうと、夫は事前にプリペイド式のケータイを買っていてくれていた。
同じ機種と色に、色違いのお揃いのキーホルダーをぶらさげて、それぞれのものとした。
そんななにげないことがすごくうれしかった。
3
昼ごはん、何食べたっけなぁ。
大阪はもうとっくに出てたから、兵庫あたりのサービスエリアだと思うんだけど……。
車走らせてる間、危険だーって分かってたけど、ずっと夫の手を握っていた。
夫はそれを振りほどきもせずに、ギュッ!って握ってくれていた。
無言だったか。会話してたか。
なんか、しばらくは無言が続いた気がする。
地元から離れるごとに不安が増していくあの感じ。
罪の天秤がどんどんと重くなっていく感じ。
触って温度を確かめていないと、自分という存在が潰れそうやったな。
サービスエリアの外で、お日様の下で、夫も私も落ち着きたくて、どちらからいいだしたか耳かきしてあげたことが、ものすごく記憶に残ってる。
なんとなく、あれはして良かった。
非日常の中の日常だからなのかな?
あの光景は覚えている。
木陰が気持ちよくて、天気が良くて、私の膝にあの人が頭を乗せていて。
晴れた空の下、堂々とこういうことができることが嬉しかったのかな、と正直自分でもよくわからない。