#13「初めての不倫」


崩れ始めた最初の一歩
店長とのゴハンは楽しかったし、美味しいお店ばかりだった。
どれも良い思い出として胸に息づいている。
あの時連れて行ってもらった素敵なお店達が、コロナ禍を経ても残ってると信じたい。
あの人との軌跡を辿るように、時を逆さに歩くように、故郷に戻ったらあちこち散策したい。
当時も今も、私は店長を、今の夫を、異性としてだけじゃなく、人として尊敬し、愛している。
元気な頃のあの人の話を、誰かから聞けたらどれだけ嬉しいだろうか。
あのお店もこのお店も、どのお店も顔馴染みで常連で、「毎度!」なんて言いながら暖簾をくぐっていった後ろ姿が懐かしく思い出される。
そうやってあの人ととゴハン食べに行くようになってしばらくした頃、店長の部下にも食事に誘われた。
一人は既婚者。
一人は独身。
この店長の……部下二人についてざっくり説明しておこう。
一人は店長がよく行っていたうどん屋で働いていた若い男の子だった。
若いって言っても当時25くらいかな。
筋金入りの熟女好きだった……けど、高校生のアルバイトの女の子にお熱だったなぁ。
車を持ってたから、それで出勤してきていた。
仮名としてその部下は「Zさん」としておこう。
もう一人は店長と同じ小学校出身の同級生。
奥さんとたしか娘さんがいたはずだ。
同級生って最初聞いた時、冗談かなと思った。
そんな偶然あるかいな、と思ってたけど、本当にそんな偶然で部下になったらしい。
とはいえ「小学校の同級生」って言っても、小学校時代はお互い関わりがなかった、とか言ってたっけ。
この人の奥さんも同じ小学校の同級生で、どういう経緯だか忘れてしまったが店長の卒アル(同じの持ってるんじゃないかとも思うんだけど、もしかしたら卒業前に引っ越したのかもしれない)に載ってた写真を見て奥さんを見つけ、名簿に載ってた連絡先に連絡し、猛アタックの末その女性と結婚した、というエピソードを聞いた。
今だと「個人情報!!」ってなるなぁ。
でも行動力は凄いと思う。そこだけは感心する。
ちなみにこっちの仮名は「Yさん」としておく。
で、そんな二人と、私と、同じバイト先で働いていた同じ歳の女の子で行くことになった……なぜか、店長には内緒で。
知られたらまずいのか、それとも単に面倒だからか、その辺の細かい背景は忘れたなぁ。
そんなふうにして、男2女2で行ったわけだけど、その時行った食事から全ては狂っていった。
どこにでもある食事会
先に話した先輩より嫌な記憶なのか、ところどころ記憶が曖昧だ。
なんとか思い出しながら書くけど、理解できない部分があったら申し訳ない。
この夜の食事……どこに行って何を食べたのかも憶えていない。
覚えているのはそのお店までZさんの車で行ったということ。
それと、食事中にしたこの会話だけは覚えている。
「ソノちゃん(もう一人の女の子)は、もし彼氏が浮気したらどうする?」
「え〜。彼氏の浮気ですかぁ? う〜ん、しないと思います」
「それって信じてるから?」
「そうですね。信じてますねー」
頭のいい子だった。高校も上から1・2を争うほどの優秀高を卒業していて、その時点での彼女は私と同じ時間帯(10時〜2時)のバイトをしながら医療系の専門学校に通い、CTとかそういったものを扱うための勉強をしていたと思う。
同級で同じ中学に通っていたんけど、接点が全く無かったので私は存在すら知らなかった。(でもソノちゃんは私を知っていた)
こういう道を辿ってきた彼女も、今はどんなふうに生きているんだろう?
きっと私の想像も及ばんくらい充実した、上流な、毎日を送っていそうな気がする。
いずれ結婚するつもりだとこの時話していた、この年上の彼氏さんと結婚したのかなぁ。
おそらく子どももいて、仕事と育児とを両立させてるんだろうな。
悪い未来を疑わなくていいほど、しっかりした女性だった。
はは。私とは段違い。レベルが違う。
でも昔、いつかの夫に、こう言ったことがある。
「男性はああいう女の子が好きだよね。ああいう女の子らしい感じのさ」
嫉妬と羨望と、自分には逆立ちしたって真似できやしない諦めを抱いて、落ち込みながら言った。
その時言ってくれた夫の返答を、私が忘れることはない。
「大多数はそうやとしても、俺はお前のほうが好きや」
嬉しかったなぁ。
うん。今でも凄く嬉しい。
思い出しただけで涙が溢れてくるぐらいに嬉しいよ。
この先どんな素敵な人が現れたとしても、私の中であなたを越える男性はいないと思う。
バカな女の大安売り
話を戻す。
YさんとZさんはそんなことを聞いても、なお言い募る。
「いや〜分からんでぇ〜。チャンスがあったら浮気するかもしれんでぇ〜」
「そうそう。男ってそういうもんやでぇ〜」
「……でも、しないと思います」
「「いやいや〜そんなことないってぇ〜」」
ウゼェ。
でもこれよくあるセリフ。どこにでもある光景。
珍しくもなんともない、どこへ行ったってこういうことを言う男はいる。
要は「浮気したい」「ヤりたい」的な願望が潜んでいるからだ。
下心は隠せず常に漏れ漏れで、てぐすねひいて網に掛かるのを待つ毒蜘蛛と一緒。
古今東西なくならない飲み会の光景よ。
……イイ男は絶対にこういう絡み方しないんだけどね。
ちなみに私はバカを極めた女だったので、先輩と浮気したことを話題にしたりしたっけな。
たぶんだけど。
その辺は覚えていない。
でもそういう前置きがなけりゃ、帰りの車の中でYさんが私に手を出してこなかっただろうと思う。
……皆まで言うな。誰より自分が一番理解してる。
「まぁいっか。気持ち良いし」で受け入れる私が一番に悪いんだって。
運転するZさんと助手席に座るソノちゃんに気付かれないようにYさんと「そういうこと」に興じた己を……今更どんなに恥じても過去は変わらない。
二十年経った今でもソノちゃんには申し訳なさでいっぱいというか……。
謝るのもなんだかなぁとは思うけれども、ンなとこでいかがわしいことした自分を一緒に殴りに行く権利はソノちゃんにも十分にあるだろう。っていうかめっちゃある。うん。
本当に──本当にこの頃の私の愚かさよ。
思い出すだけで消え入りたい。
ブログなんてモンにこうやって書いて色んな人に読まれているのかと想像すると、私の恥はどれだけ積み上がっていることだ。
あああああ、若い頃ってなんでこんなんなんだろう!
だから、これを読んでる女子のみなさんに言いたい。
特に若い子は覚えておいて欲しいんだけれど。
自分を安売りするんじゃない。
自分の安売りの先に良い未来はない。絶対にない。
それが体だろうが、技術だろうが、労働だろうが、安売りはしちゃダメだ。
自分で自分の価値を落としちゃ駄目だ。
「いずれ高く売る」ために「今は安くしておく」ってのはあるけれども(高級遊女なんかも最初はそうだったろうし)、でも女性は誰しも愛されるために生まれてきてるんだから、こういうことは基本しちゃいけない(生きるためにする人はいるかもしれないが)。
な の に こ の 頃 の 私 と き た ら……‼︎
何がダメなのかの自覚もないまま、安く安く生きてたから救いようがなかった。
「それでも必死で足掻いていた」と言えなくもないが、「自分がなにをしているのか」を理解していないとそれにすら気付けなかった。
なにより悪い男・汚い男というのは、そういう「無自覚な都合のいい女」を見つけるのが上手い。
あたしゃそりゃあもう食い出のあるオイシイカモネギだったろう。
余談 詐欺に遭ったときのこと
で。これものちのち関係してくる、お話なのだが。
この頃……二十歳を越えてすぐの頃、私は詐欺被害に遭った。
「真珠のネックレスを買わないか」という内容を、そりゃあ上手い具合に勧められて、買わされたのだ。
……ああ、そうだよ。買ったんだよ。詐欺に気付きもしないでな。
「親には言うな」というセリフになんの疑問も抱かなかったんだよ。この時のあたしゃ。
結果としてそれは、一ヶ月半後くらいに友人の機転で一円も損せず事なきを得ることが出来た。
あの時友人が「怪しい」と気付いてくれなかったら、私は大学三回生で二百万を支払うだけの借金を負うところだった。
全力で助けてくれた友人と父には感謝しかない。
経験が浅く、なにより精神も思考も幼いというのに年齢だけは成人しているというのは、今振り返っても危なっかしくてしょうがない。
当時の私は何の根拠もなく「自分だけは大丈夫!」と思っていた。
こういう思い込みをしているやつは絶対に詐欺に引っ掛かるので気を付けられたし。(経験者は語る)
余談、以上。
そんなフワフワとした押しと流れで、私はこのYさんとズブズブの関係へ沈み堕ちていくことになる。
仮に自分の人生を折れ線グラフでみたとき、一番底辺にあるのがこの時期だったと、間違いなく言える。
苦労してきたとかお金がなかったとかとは、ベクトルの違う不幸とでも言おうか。
とにかく精神的に本当に惨めだった。
暗澹たるこの頃のお話は、次回しようと思う。