21歳で妻子持ちと駆け落ちした私の話 6

付き合う前の彼との思い出は、他にもある。
この先話すことがなさそうだから、やっぱり最初のうちに話しておきたい。
共通の趣味 映画
お互い映画がとても好きで。
彼は芸術大学の映像学科卒業生なこともあって詳しいし、知ってる量が桁違いだった。
私は父親がイラストレーター(ある日脱サラしてきたけど)なこともあって、その影響で一般家庭より映画を見る機会が多くあった。
そんな父に手を引かれて、小さい頃から映画館によく連れて行かれた。
子ども心に理解し、いつまでも心に焼け付くような映画は多々ある。
小学校3年生くらいの時に見た映画だったと思う。
ずっとずっとずーーーーっと、あのシーンが、あの映画がまた観たくてたまらないと十年近く思っていたのに、全然タイトルを覚えていない映画があって。
どうにかしてもう一度見返したい、と願ってやまない映画があったのだ。
今の時代なら質問サイトで答えが得られたやろうけど、当時はネットに触れていなかったもんやから。
たまたま「俺映画詳しいで~」と言った店長に「(ほんなら知ってるかもなぁ)」と思って訊いてみたのだ。
「10年か15年くらい前の映画で。カウボーイが出てきて。牛をどっかに連れて行くお話で。途中牛の出産があって。ほんでもってカウボーイの一番年配のおじいちゃんがおるんやけど、話の途中で亡くなってしまうヤツのタイトル知りません?
ずっとあれがもう一度観たくって」
で、その時の店長の反応もおおげさなものじゃなかった。
「分かった。探しとくわ~」
マイナーな映画やろうなぁって思ってたから、正直期待してなかった。
星の数ほどある映画の中からその情報でピンとくるって、観て覚えてない限り無理やろうし。
そんな会話すら一瞬で忘れた私が、次回出勤したときのことだ。
「シティ・スリッカーズ」というコメディ映画
「これやろ?」
おもむろに上の棚から、店長は板を取り出してきたかのように見えた。
おっさん3人が空を背景に笑ってるジャケット。

知ってる人、いるやろうか?
そもそもあの情報でピンと来た人がどれぐらいいるだろう。
もし知ってた人がいたなら、きっとアナタも映画好き。
そのうち、この映画だけを語る記事を書こう。
本当に大好きで、面白くて、コメディやけどめちゃくちゃいい映画なんよ。
ぜひ、多くの人に観て欲しい。
思い出との対面
あの人からDVDを渡されて、それがまさに言ってた映画そのものと理解した瞬間、泣いたね。
彼はギョッてなったらしいけど(笑)
「これです……ああ、やっと見つけた。ありがとうございます……」
仕事中やったけど、ボロボロ泣いたなぁ。
本当にずっとずっと探してた映画やったから。
「これだ」と知った瞬間の嬉しさたるや!
思い出の、自分の胸の奥深くに突き刺さって、いつまでも影響を与えてくれてる映画の一つに、ようやっと出会えたあの感激。
ありがとうという言葉しか出てこなかった。
また観れることが心の底から嬉しかった。
ただでさえ思い出の映画なのに、この出来事があったおかげで更に思い出深い作品になったことはいうまでもない。
なんなら私が死んだとき、棺と一緒にDVDを燃やして欲しいくらいだ。
あの世であの人と一緒に観るから。
「あの時のこと覚えてる?」
「忘れるわけないやん」
って。
何度もしてきた会話を、いつかするために。