#54

失業保険がすぐに出ない
心臓に水が貯まるとか、
原因はよく分からないものの、
なりたくてなったわけじゃない。
それなのにクリニックは院長の一言でクビとなり、
確実な収入がまた一つ減ってしまった。
この時の生活費は、
私のアルバイト代・視覚の障害年金と慢性腎不全の年金でまかなうこととなった。
まぁまぁあるように思うが、
もともと夫は浪費家だし、
交通費やら車の維持費なんかで余裕はない。
当時はいくつもローンを組んでいたので
夫の手取り20万がぽんと消えることになったのは痛かった。
まぁこういう時のために、高い厚生年金を払っているところもあるので、
すぐにハローワークへ行った。
最初、よく調べず最寄りのハローワークへ行ったら「管轄外」と言われ、
担当のハロワを教えられてすぐ追い出されたが。
役所ってそのあたり本当面倒くさい。
で、その日、色々まわって夕方にハローワークへ行ったのだが、
申請しようとしたのが4時半だった。
自動ドアをくぐって、私たちを見た途端、
とある男性がグルっと振り返って時計を見やがったので良く覚えている。
ものっっっっっすごい迷惑な顔をされたのも、ついでによく覚えている。
「失業手当の申請をしたいのですが」
と言ったら、
その場にいた人全員が迷惑な顔に変わったのも、
ああ、本当に良く覚えているとも。
「失業手当ですか……?」
対応してくれたのは女性だった。
忘れもしない。
この女性がいかに今の私たちには申請が出来ないことを、
それはそれは嫌そうに迷惑そうにうざったそうに
はよ帰れと言わんばかりの態度で対応し、
きっちり30分後に帰されたのだから。
まぁでも私たちも悪かったなと、今なら思うけれど。
行けばどうにかなるだろうと思っていたあの頃。
ちゃんと下調べをして、必要書類を集め、
きちんと一日の計画を立てて行動していれば
あんな不快な対応はされなかっただろう。
この頃の私たちはギリギリで動く癖があった。
特に私だが。
結局のところ、
申請と言うのは事前準備が重要という至極当然の学びを得た。
問題は失業手当が3ヵ月からしか出ないと言われたことだ。
これは書類があればいいだけの話なのだが、
夫もそのクリニックを辞めたがっていたのもあって、
「職場から一方的に解雇された」
という書類が手に入りそうになかったのが理由だ。
あと、夫の職場の院長もたいがいの人格者なため、
「じゃあ書類出しますわ」
とは絶対ならないタイプの人だったので、
夫は職場に電話して頼むことすらしなかった。
たぶんもう色々怒って、縁を切りたがっていたんだと思う。
でも3ヵ月はさすがに待っていられない。
なのでどうしたかというと、夫は思ってもみない方向からアプローチした。
「あんまりいい手段ではないけれど」
「あんまりいい手段ちゃうって分かってるけど、しゃあないな」
と夫は病院側へ電話をした。
「俺は嫌がったのに、お前らがして欲しくも無いのに手術をしたせいで、オレは職を失った」
と言ったのだ。
ヤクザのような口調でまくしたて、ごねにごねて、
夫は病院側にその提出書類を用意させた。
迷惑がられながらも説明はしっかりしてくれたので、
書類がそろえば即申請しにハロワへ行った。
そして2週間後くらいから失業手当をもらえるように手続きしたのだった。
ああ、うん。
本当に病院側には迷惑をかけたなと思っている。
私は、そこは、とても申し訳なく思っているのだ。
でも、私たちも3ヵ月後はさすがに死活問題だったので、
もう時効と許して欲しい。
私たちも反省はしているのだよ。
あの「失業手当3ヵ月」というのはかなり長いと思うので、
早く法改正されてほしいものだ。
風のうわさで「するらしい」とは聞いたのだけど、
それが施行されるのは果たしていつなんだろうな……。