#51

オトンが乗り込んで来た日③
面倒なことこの上なかったが、
近くにオトンが来ている以上、
無視するわけにはいかなかった。
でも、のちに聞いた話、私の父は
「あの時、本当に来てくれるとは思ってなかった」
とは言っていた。
そうか、別に行かなかくても良かったのか(チガウ)
まぁ夫はどちらかと言えば「筋を通す」タイプの人間なので(駆け落ちを選んだのはそれには当てはまらないが)、
どれだけ嫌だったとしても、
オトンが会いに来た・どこそこで待っている・と言うのなら、
ちゃんと赴いただろう。
広島になんかめっちゃヘンテコな噴水があるのだが(なんかお尻みたいな……)、
そこのヘリに、オトンは座って待っていた。
一瞬誰だかわからないくらい、くたびれて見えたっけな。
自分の記憶にあるより白い髪に、
かっさりとした肌としわしわの服。
どこぞの小汚いおっさんがいるようだった。(言い方)
まぁでもオトンであることに間違いはなかった。
オトンはウチを見て感動しているようだったが、
ウチは
「(はぁ~、年取ったなあぁ~)」
って他人事のように思っていた。
「とりあえず、どっか店に入ろう」
とオトンが言うので、
近くにあった、昼から開いてるチェーン店の居酒屋的なところへ3人で行った。
痛かったなぁ
座って、
飲み物注文して、
オトンが言った。
「おかやん。眼鏡をとりなさい」
めがね??
はて、なんでやろ。
と思って、言われるがまま取ったら、
思いっ切り殴られた。
パーやけど。
んで怒鳴られる。
「お前らが俺らにかけた迷惑は半端やないぞ!」
あ。そうですよね。
わかってますわかってます。
この「半端やないぞ」に込められた物言いに、
「(ウチが想像するよりあっちはめちゃくちゃ大変やったんやろうなぁ)」
としみじみ感じる取ることが出来た。
まぁ、夫、店長やったもんね。
妻も子供もいたもんね。
ウチが捨てたもんより遙かに放り出してはいけないもんを、
まるっと投げ出して来たんだもんね。
そりゃあそうだ。
で、オトンはウチをはっ倒したあと、夫まで殴ろうとするわけよ。
「(それだけは絶対させん!!)」
とウチは夫の頭を抱きしめたなぁ。
「どきなさい!!」
「どいたら殴るんやろ。ならウチは絶対どかん!!」
「いいからどきなさい!!」
「おかやん。オレは良いから。殴られて当然やねんから」
「絶対嫌。何があっても殴らせへん」
とまぁ、オトンと睨み合いよ。
5分くらいそんなやり取りと睨み合いしてた気がするんやけどなぁ。
実際はどのくらいやったんやろ。
先に諦めたんはオトンやった。
「わかったから。もう殴らんから」
「信じられへん。どいた瞬間もしこの人殴ったらウチは一生オトンを恨む」
「せえへんから。分かったて」
「ホンマに?」
「ああ」
「ホンマやな」
用心深ーく夫からウチは離れた。
うん。殴るそぶりをみせなかったので良かった。
もし殴られでもして、また網膜剝離になるとも限らんしな。
ウチは何べんでも殴られても構へんし、実際そう言うたけど、
一発しか食らわんかったなぁ。
ジンジンする頬の痛みを噛みしめつつ、
ウチはオトンと向き直った。
そこから更に10分くらいして、
ドリンクが来た。
たぶん、お店の人ビックリしてたと思う。
昼前の、他にお客さんが全然いない時間帯で良かった。
突然何が起こったんやと思ったことだったろう。
あの時はごめんなさいと、お店の人には言いたいもんだ。