#46

透析が始まる
夫が鍼灸師になる直前くらいのことだ。
「尿の数値が良くないね。ちょっと早いけど、そろそろ透析始めよっか」
と言われ、
毎日フルタイムで勤務することが出来なくなった。
ああ、そうだ。思い出した。
キリも良かったし、透析の始まるタイミングと、
仕事を始めるタイミングがほぼ一緒だったはずだ。
透析によって、長年お世話になって来た病院も、
透析施設がないがために、
違う病院へと通うことになったのだった。
転院は大きなキッカケだったな。
透析で通った病院は、目の手術をした病院より、
かなり質が悪かった。
利益しか見ていない病院ってこんな感じなのか、と関わるたびに思ったものだ。
夫も、病院に対して不平不満をよくこぼしていた。
早く始めなければ良かったな、と思うけれど、
医者が言うなら仕方ないと思ったし、
まさか病院でここまでしんどくなるとは思っていなかった。
とはいえ、透析始めの方はそれでも体調は良かった。
しんどそうでもなかったし、
終わってからも元気に歩けるほどに
調子が良かった。
なにもかもしんどそうになるのは2・3ヵ月ほど経ってからだ。
透析と病院
体験してつくづく思うが、透析は本当に終わりのない
本人も家族も苦しいシステムだ。
でも、透析をしないと毒素が体に回り、
すぐに死んでしまう。
そして、一度透析を始めたならば、
もうその病院からは抜け出せないと言っていい。
事実、夫はそこへ6・7年は通ったはずだ。
透析患者一人に対して、年間約200万ほど、
国から補助金が出ているということを知ったのは、
ずいぶんあとになってからだ。
市内にある病院だったし、
通うための交通費も月7,8万は飛んで行った。
それでいて、週3回、太い針を突き刺し、
4時間動けず、
血をろ過するのをひたすら待つ。
そういえば、血管を太くする手術もしたっけな。
透析はとにかくシンドい。
ひたすらにつらい。
ただただ苦しい。
透析によって、これまでと全く違う生活にならざるを得なかった。
どう振り返っても、透析によって何もかもが狂わされた気がする。
透析が始まって良かったことを思い出そうとしても、
本当になにひとつありはしない。
糖尿病の本当に恐ろしい部分は
この「透析」だと、私は思う。