#44

夫、学生の楽しかったこと
3年間の学校生活を見ていて、
人が好きな夫は、
やっぱり人と何かを一緒にしている時が
一番楽しそうだった。
例えば運動会で新しく競技を作ったり、
友人と立ち上げた部活の(パソコン部作ってたな)文化祭の出し物だったり、
私を含めた仲の良い者たちで集まって始めた音楽バンドだったり。
終業式には毎度、打ち上げのようにご飯を食べに行ってたし。
なにより、体調もそこまで悪そうじゃなかった。
だからこそ、
身を削るようにして勉強をしていた。
今の自分が同じ世界を目指すにあたり、
そうしなければ国家試験に合格試験なんて合格しないんだなと
今なら理解できる。
楽しい部分だけをあげれば「学生ってイイな」と思うのだけれど、
自分の持てる時間すべて投げうって勉強に打ち込まなければ、
人の命を預かる医療職なんて勤まらないのだと、
医療従事者の人と話をするたびに痛感する。
私は当時の夫を軽く見ていた。
ただただ私との生活のために、
中途失明によって今までとガラリと変わった勉強方法で、
よく医療を学び、鍼灸あんま師になってくれたな、と思う。
夫には感謝と、私への愛情を深くふかく感じる。
やっぱり私はあの人を好きになって良かった。
あの人が抱いていたであろう私への想いを、
私はこの先も忘れはしまい。
国家試験のとき
こうやって物事の変化だけを切り取ると、
あっという間に時が流れていく。
3年間という間で、詰め込まれるだけ専門知識を詰め込まれて、
文句や愚痴を言いながらも、
夫は毎日勉強していた。
そして泊りがけで試験を受けに行っていた。
試験会場がえらく遠かったから。
前日、夫は勉強していなかった。
「今更ジタバタしても仕方ない。ここまでは出来ることは全部やったから、
今日は寝て備える!!」
と言って、出立前日は早く寝ていたのを覚えている。
それでも、あれほど緊張していた夫をみたのは、
初めての目の手術前以来だったな。
ウチは試験もプレゼンもないので、ただ毎日気楽に働いていた。
夫の気迫と追い詰められっぷりを見ていたら
「私はただ働くだけでいいんだから楽だなぁ」
とか思っていたくらいだ。
3年後、今度は私が、このときの夫と同じ思いを辿ることになるだろう。
それはそれで嬉しいが、
「地獄の3年間」
と誰もが口をそろえていう世界が、
今からどちゃくそに恐ろしい。
でも私の意志で「看護師になる」って決めたから、
私は自分のすべてをかけて、
これから努力しなきゃならない。
夫はどれほどの苦しみを、
私のために耐えてくれたんだろうか。
そして、今度は私が耐える番だ。
夫は……ちゃんと一発で合格してくれた。
妻である私も後に続かなきゃいけない。
自分のために努力するのは出来なくても、
夫のためなら私はなんだってすると思う。
あの人に恥じない妻でありたい。
ただ、あの人の辿った轍を行くように、
私も後ろを歩いていきたい。
夫を失った今の自分には、
それ自体が喜びなのだ。