#35「3度の手術」

糖尿病のおそろしさ
網膜剝離の手術は部分麻酔だ。
目に注射を打って麻酔をかけ、
目を切って、
剥がれた網膜を眼底に敷いて、
ガスを入れて膜が再び貼りつくのを待つ。
自分の体に本来備わっている自己修復能力がものをいう。
糖尿病ってとにかく血のチカラが弱る病気だなぁと、
ずっと見ていて思った。
血は常に全身を駆け巡って、私たちに酸素と栄養を供給してくれるのが基本だ(本当は6つあるけどまぁここはザックリ)。
夫の糖尿病はそれはもうひどいのか、
2週間ぽっちじゃ網膜が全然くっついてくれなかった。
入院中は毎朝、目に注射をしなければならない。
眼圧を抑えるんだったかな?
とにかく、必ず目に注射をする。
ぶっとい針が眼球にぶっささって、
何らかの液が入れられる、
それはそれは痛い注射だそうだ。
夫はそれを半年間続けた。
なぜならば手術がうまくいかないから。
医師の腕が悪いんじゃなく、
夫の体が悪いのがすべての原因だ。
自業自得といえばそれまでなんだけれど、
とにかく、私も夫も、共につらい入院生活だった。
麻酔の効きにくい体質
その半年間で、「貼り付いたと思った網膜がまた剥がれた!」
ということが2度あった。
なので、手術は合計で3回したという。
本当によわよわな血管だった。
見た目は丈夫そうながっちりぽっちゃりおにいさん(あえておにいさんと言おう)だったけど、
中身はあちこちボロボロだったんだろう。
出会う前から市販の薬とかも日常的に飲んでいたし(病院嫌いだから)
体が大きかったから容量も多めだった。
そんな生活を続けていたからか、
薬に耐性がついていた。
おかげで、麻酔が全然効かなかったと言っていた。
痛みで悲鳴を上げるし、反射的に動くし、
手術中は良く怒鳴られたと言っていた。
「我慢しんしゃい!!」
いや無理やっちゅの!……と夫は思いつつも、
目をいじくられる感覚に耐えていたらしい。
3回とも効かなかったし、
やっと効いたと思ったらそこから30分くらいで麻酔が切れるという。
追加の麻酔をしてもやっぱり効くまでに時間がかかり、
手術の終わりはいつも痛かったと話していた。
打てるギリギリの量を毎度打っていたけれども、
麻酔はほぼ効かなかった。
難儀な体だ。
いっそ全身麻酔なら良かったんだろうけど、
目の手術はそういうわけにはいかないらしい。
それでも、
夫は私との未来のために手術に耐えてくれた。
そこまで時間をかけ、痛みに耐えてきたけれど、
視力はほぼ失った。
しわくちゃになった網膜を伸ばしたところで、
その膜がまともに像を映すはずがない。
右目は光を感じるだけの機能しか残らなかった。