#12「フラれてから」
おかやん
おかやんブログ
縁も親類もいない新しい土地・広島に駆け落ちてきた私と夫。
新居に越して来た時はトラブルはあったものの、
そこからは穏やかな日々が続いていた。
朝起きて、当たり前に隣に好きな人がいて、
「おはよう」と言えることが本当に幸せだったあの頃。
お金や未来に対しての不安はあったものの、
幸せすぎて、ずっと怖かった。
いつか大きなしっぺ返しが来るんじゃないと……。
そして、それはある日突然やってきた──。
忘れもしない。
その日は夫の誕生日だった。
だから、その日の予定は映画へ行こうということになった。
観に行った映画も良く憶えている。
ティム・バートンの「コープス・ブライド」だ。
何の変哲もない朝、
映画へ行く楽しみに心を躍らせながら、
出発時間まで夫と少しイチャついていた。
その時突然、夫が
「うわっ!」
と声を上げて目を押さえた。
ウチは何が起きたのか分からなかった。
聞けば、右目に真一文字に亀裂が走り、
ふわぁと目の中に赤が広がる光景が見えたという。
「病院へ行こう」
とすぐにウチは言った。
けれど夫は
「いや、俺は映画へ行く! 何が何でも行く!!」
と言って聞かなかった。
その日、夫と映画は観た。
片目が完全に血の色に染まり、
もう片方で映画を観たと言っていた。
その日も、
その次の日も、
ウチは「病院へ行こう」と何度も言った。
でもその度に
「お金ないし」
「保険ないし」
「今は働かないと」
と言って、
夫は病院へ行こうとはしなかった。
……つらかったな。
夫は糖尿病の家系だった。
その時は原因は分からなかったけど、
駆け落ちしてからずっと、
ウチは夫が早く病院へ行ってくれることを望んでいた。
駆け落ちなんて選択をしていなければ、
夫は両目の視力を失うことはなかったかもしれないと、
ウチは今でも後悔してしまう。