#30「糖尿病性網膜剥離」

おかやん

これまでのお話

縁も親類もいない新しい土地・広島に駆け落ちてきた私と夫。

新居に越して来た時はトラブルはあったものの、

そこからは穏やかな日々が続いていた。

朝起きて、当たり前に隣に好きな人がいて、

「おはよう」と言えることが本当に幸せだったあの頃。

お金や未来に対しての不安はあったものの、

幸せすぎて、ずっと怖かった。

いつか大きなしっぺ返しが来るんじゃないと……。

そして、それはある日突然やってきた──。





夫の誕生日の朝

忘れもしない。

その日は夫の誕生日だった。

だから、その日の予定は映画へ行こうということになった。

観に行った映画も良く憶えている。

ティム・バートンの「コープス・ブライド」だ。

何の変哲もない朝、

映画へ行く楽しみに心を躍らせながら、

出発時間まで夫と少しイチャついていた。

その時突然、夫が

「うわっ!」

と声を上げて目を押さえた。

ウチは何が起きたのか分からなかった。

聞けば、右目に真一文字に亀裂が走り、

ふわぁと目の中に赤が広がる光景が見えたという。

「病院へ行こう」

とすぐにウチは言った。

けれど夫は

「いや、俺は映画へ行く! 何が何でも行く!!」

と言って聞かなかった。






あの日の後悔いつまでも

その日、夫と映画は観た。

片目が完全に血の色に染まり、

もう片方で映画を観たと言っていた。

その日も、

その次の日も、

ウチは「病院へ行こう」と何度も言った。

でもその度に

「お金ないし」

「保険ないし」

「今は働かないと」

と言って、

夫は病院へ行こうとはしなかった。

……つらかったな。

夫は糖尿病の家系だった。

その時は原因は分からなかったけど、

駆け落ちしてからずっと、

ウチは夫が早く病院へ行ってくれることを望んでいた。

駆け落ちなんて選択をしていなければ、

夫は両目の視力を失うことはなかったかもしれないと、

ウチは今でも後悔してしまう。






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アラフォー主婦のノンフィクション雑記ブログ
21歳で駆け落ちした経歴を持つ、現在39歳の未亡人です。 このブログが多くの人に読まれ、亡くなった夫のことを私以外の誰かにも知って欲しい。
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