#2「出逢い」


出逢い
そこまで心を傾けられる男性に出会えたことが、私は本当に幸福だったと思う。
ここからは、そんな夫との出会いから話していきたい。
まぁ……あんなしんどいばっかりはしんどいしね(笑)
そんなわけでここからは、時系列でのんびりゆっくり話していきたいと思う。
出会いって言っても、それはあんがい普通。
別に劇的なモンでもなぁんでもなくて。
どこにでもある日常の一コマだったと言える。
でも……でも、すんごくよく覚えてる。
それは一本の電話から始まった。
店長とアルバイト
当時、私は19歳だった。
大学2回生で、大学で入ったクラブのためにお金が欲しかった。
私が所属していたのは体操部で、これがまぁ金がかかるクラブだったんだわ。
器具とか高いから月々の部費も高めだし、休日は体育館に使用料払って練習させてもらったしてたり、試合ってなったら交通費もかかるし、試合のためのレオタード代もいるしで、親からせびるには少々無理がある部活だった。
で、親からも「アンタそろそろバイトしい」と言われたから、週末広告を漁ってた。
あの頃はとにかく部活優先だったから、部活しながら働けるところがいいな~と思ってて、時間が遅めなのを探してた。
んで、見つけたのが焼肉屋の深夜バイト。
夜の10時から閉店の2時までで、で、時給が1200円だったかな?
おいしいやん?
部活終わってからでもなんとか働ける時間やったし、時給もそこそこやし、とりあえずそこに狙いを定めてアルバイト申し込みの電話をしたんよ。
それがねぇ~、今でもホントに良く覚えてんなってくらい印象的だったの!
うん。本当によく覚えてるし、なんなら今まで生きてきた中で一番楽しい電話だったって言えるほどに。
これは、夫もそうだったみたいで。
電話を切った後、夫は他の従業員にこう言ったらしい。
「俺もうこの子雇うから」
一目惚れってあるやん?
今思えば「一声惚れ」やったんかもしれん。
そんな単語ないが。
これ、お互いがそう思ったらしくって、今思っても不思議な感覚になる。
仕方なくでかけた電話やったのに、これだけ好い思い出として残ってるのは、やっぱり不思議だ。
ファーストコンタクト
「はい。こちら焼肉店『道』でございます」
「はじめまして。私ヒトエおかやんと言います。実はアルバイト募集の広告を見てお電話させてもらったんですけども」
「あ。そうですか。ありがとうございます。では面接をさせていただきますので、えーと、ご都合の良い日を教えてください」
「ええと、学校がありますので、平日は六時以降か、土日でしたらいつでも大丈夫です!」
そんな感じで日を決めた。
それだけの会話。それだけのやり取り。
どこにでもある、なにげない一瞬。
でもなんだろうな。やけに気持ちよかった。
すがすがしいと言い換えてもいいかもしれない。
あんだけしか話してないのに、電話を切ったとき「なんか今までしてきた電話の中で一番楽しかったな」って思ったぐらいだったから。
その時は「たぶん会話の誘導が上手い人なんだろうなー」と思ったけど、今思えばそうじゃない気がする。
初めて電話で話すにもかかわらず、なぜかお互いに裏表がないと感じ、義務的な内容なのに楽しく約束を取り付けれたって──実はめちゃくちゃ稀有なことだったんじゃないかな。
そんな風にして未来の夫と初めてつながった日。
それは、家の目の前に広がる田んぼの稲が、目にも鮮やかに青く揺れる八月のことだった。